アウトプット効率化の先でアウトカムをどう高めていくか —— 開発チームのドッグフーディング実践記

はじめに

こんにちは!GroovesでCrowd Agent開発組織のマネージャーをしています、鳥井(https://x.com/hirot_san)です。

最近、開発チームで取り組んだドッグフーディングがとても良い試みだったので今日は紹介したいと思います。ドッグフーディングとは簡潔に表すと、自社プロダクトをユーザーになりきって使ってみる会です。実際にやってみると気づきが多く、チームにとってとても良い時間になったと感じています。この記事では、なぜこの取り組みを始めたのか、実際にやってみてどうだったかをお伝えできればと思います。


背景:なぜ取り組みを始めたか

専門性の高いドメインで複数のユーザー属性が存在するプロダクト

私たちが開発するプロダクトは人材紹介領域のBtoBプラットフォームになります。特徴的なのが、考えるべきユーザー属性が複数にわたることです。人材紹介会社様(エージェント)、エージェントの先にいる求職者様、採用企業の人事担当者様、社内のオペレーター、それぞれ立場も使い方も異なるユーザーが存在しています。また、人材紹介という日常的に接点の少ない業務ドメインでもあるため、開発組織として意識的にユーザー理解を深め続けることが必要だと考えています。

「速く作れる」と「価値が届く」は別の話

AIを活用した開発が日常になってきた中で、コードを実装する速さや設計の叩き台を出す速さは以前と比べてかなり変わってきています。いわゆるアウトプットレベルでの効率化が一気に進んだ感覚です。ただ、効率化によって浮いた時間をどこに使えているか、というのは別の話です。

私たちがプロダクト開発で本当に目指しているのは、ユーザーに価値を届けること——いわゆるアウトカムを高めることです。作るスピードが上がっても、届ける価値の質が上がっていなければ、本来目指しているところには近づいていません。効率化で生まれた余白を、アウトカムを高めることに意識的に使えているかどうか。プロダクトチームとして目指すべきポイントがここでした。

開発を続けているとユーザーの感覚が抜け落ちやすい

もうひとつ、プロダクト開発に関わる人間が陥りやすい問題があります。毎日プロダクトに触れ、仕様を隅々まで知っているからこそ、ユーザーが迷うような場面でも自分たちは迷わずに操作できてしまいます。そのギャップは開発に慣れる中で徐々に積み重なっていきます。

ユーザーインタビューや定量データは重要な情報ですが、一方でそれだけでは届かない「手触りの感覚」もあると感じています。ユーザー視点でプロダクトを使い「あれ、ここどうするんだっけ」「なんとなく使いにくい」という感覚を持ったときにこそ見えてくるものもあります。

レトロスペクティブから始まったドッグフーディング

上記背景もあり、チームとして継続的にユーザーへの解像度を上げる活動が重要だという意識は以前からありました。ドッグフーディングはその取り組みのひとつとして、レトロスペクティブから生まれた「やってみよう」というアイデアが形になったものです。

レトロスペクティブでの意見を抜粋

設計思想:何をやる会にするか

ミッションを具体的に設計する

「プロダクトを触ってみましょう」というだけだと、どうしても開発者として見てしまいます。そこで今回は参加者全員に架空のエージェント(キャリアアドバイザー)アカウントを発行し、開発のステージング環境で特定の候補者に提案する求人を3件選ぶというミッションを課しました。具体的なゴールがあることで、リアルな業務に近い感覚でロールプレイング的にプロダクトを使えたと感じています。

批評ではなく感情を集める場にする

仕様の矛盾を探す会でも、改善案を議論する会でもなく、ユーザーとして使ったときの「感情を集める会」として設計することを大切にしました。具体的には以下の3つの問いをMiroの付箋で集める形にしています。

  • ここが良い:使っていて気持ちよかった、迷わなかった部分
  • こうだったらいいな:使いにくさを感じた、引っかかった部分
  • こうなったら:あったらうれしい、こういう機能があれば

「How(どう実装するか)の話は一旦禁止」というルールも最初から設けました。技術やデザインの話になると、どうしても作り手目線に引き戻されてしまいます。まずは感情だけを集めることに集中する時間を作ることが大切だと感じています。

感想戦をセットにする

実際に上記設計で試してみると、良い意見がたくさん出てきました。意見が出ただけで終わらせるのはもったいないと感じ、プロダクトをさわる時間とは別に感想を話し合う時間を作りました。ドッグフーディングをやりっぱなしにしないため、体験から出てきたアイデアや気づきを開発ロードマップのどこに翻訳できるか、普段の業務へどう還元できるかを議論する時間です。

実践中の風景

実践の中で出てきた気づき

  • ホットな求人の検索がしやすい
    • 検索項目で目立つ点やソートできるところが良かった
  • ウィンドウの幅によっては収まらない情報がある
    • 複数の情報を比較したい際に項目によっては反復スクロールが必要だった
  • 表によってソートができない
    • ソートできる領域とそうでない領域が混在している
  • 自動的にAI活用できる部分を増やしたい
    • 求人票や職務経歴書など長文を読み込む機会が多く、脳への負荷が大きい

機能を個別に作り込むことが多い普段の開発では気づきにくい点もあり、業務を模倣する中での気づきがあったように感じます。Miroの付箋にはポジティブ・ネガティブな気づきからアイデアまで、どんどん積み上がっていきました。

ドッグフーディングの実践風景

感想戦:体験をプロダクトに届ける

感想戦では「あの体験のどこが一番辛かったか」を参加者それぞれが言語化し、開発ロードマップのアイテムと紐づける作業をしました。

感想戦の様子

面白かったのは、同じ体験をしてもメンバーによって言語化観点が変わることです。

メンバーによって「列のソートがないのが辛い」という見え方をする一方で、別メンバーの視点からは「求人情報の構造が抽象的すぎて、要件を満たしているか判断するのが辛い」という言葉が出てきました。同じ画面、似た操作をしていても、それぞれのバックグラウンドによって引っかかるポイントが異なります。こういった視点の違いが、ひとつのセッションから出てくるのがチームで行うドッグフーディングの面白さだと感じています。

総括

今回実感できたことを以下にまとめます。

普段とは違う気づきが得られる

感想戦の冒頭でうれしかったのが「なんとなく辛いが言語化されて、たくさん気づきが得られた」という参加メンバーの言葉でした。開発者として見ていた画面と、ユーザーとして使う画面では、同じ画面でも捉え方が違います。実際に操作して迷うことで初めて「やっぱり分かりにくい」と気づく感覚がありました。

職種の壁が薄くなり、共通認識が増える

エンジニア・PdM・デザイナーが同じ体験をベースに議論できるため、データやレポートだけでは理解しにくい「なんとなくの不満」が参加者全員の共通認識になります。また、それぞれが違う視点から同じ課題を見ているので議論自体の解像度も上がります。

機能開発のアイデアを自分たちで見つけられる

プロダクトオーナーが主導し、ユーザー起点・CS起点での機能開発を進めることも重要ですが、開発メンバーが自発的に機能開発や改善アイデアに気づけることはプロダクト開発組織としても示唆があると感じています。

全員で話し合える場の価値が大きい

感想戦のクロージングで「結論が出ることよりも、話し合うこと・体験することの方が重要だと思う」という言葉が出ました。ドッグフーディングはひとつの取り組みで何かを完結させる会ではなく、チームがユーザー解像度を高め続けるための積み重ねだと感じています。


おわりに

AIが開発の速度を上げてくれる今だからこそ、その余白を何に使うかが問われていると感じています。アウトカムを高めるためにも、継続的なユーザー理解とドメイン理解にチームの時間を使いたいと考えています。

ドッグフーディングは特別なツールも大がかりな準備も必要ありません。ミッションを設計して、ユーザーになりきって使ってみて、感じたことを集めるだけです。それだけなのですが、チームとしてやってみると思った以上に得られるものがありました。

まだ取り組みとしては始まったばかりで、これから改善しながら続けていくフェーズになります。同じような課題意識を持っている方の参考に少しでもなれば幸いです。